
手形の時効について
手形の券面を持っていれば、支払期日(満期日)から3営業日以内の支払呈示期間にお金を請求することができます。そして、この期間を過ぎてしまっても、手形金を請求する権利は存続します。
では、その請求権はいつまで存続するのでしょうか。手形の権利が消滅する期間は法律で決まっています。これを消滅時効といいますが、権利の種類によって消滅時効の期間は異なります。それでは、手形に関する時効について見ていきましょう。
誰が誰に請求するか:ケースにより異なる手形の時効
手形の支払呈示期間が過ぎても請求権は存続しますが、誰が誰に請求するかによって、次のように時効の期間が異なります。
■振出人に対しての請求: 3年
支払期日(満期日)の翌日を起算日として、3年後の応当日の前日で時効期間が満了となります。
■裏書人に対する遡求権
振出人に支払いを拒絶された場合、裏書人に請求できますが(訴求権)、この場合は誰から請求したかで、時効期間が異なります。
(1)所持人から裏書人に請求する場合: 1年
拒絶証書(支払いが拒絶された事実を証明する書類)を作成した日から1年です。「拒絶証書不要」と書かれた手形の場合は、支払期日から1年で時効となります。
(2)弁済した裏書人から請求する場合: 6ヵ月
(1)のケースで振出人に代わって弁済した裏書人が、さらに別の裏書人に請求(再遡及)する場合は、弁済した裏書人が手形を受戻した日から6ヵ月です。弁済の訴えを受けた場合は、訴状を送付された日から6ヵ月で時効となります。
■保証人に対しての請求
(1)振出人の保証人に対して請求する場合: 3年
支払期日から3年で消滅時効となります。
(2)裏書人の保証人に対して請求する場合: 3年
拒絶証書を作成した日から3年、拒絶証書不要の手形の場合は支払期日から3年で時効です。
気にすべき時効はもう1つある!
そもそも手形を振出した背景には、通常、商品を仕入れするなどの取引があります。手形自体の時効はまだ到来していなくても、その取引の支払い(商品を売った側から見れば売掛債権)が消滅時効にかかってしまうことがあります。
例えば、製造業・卸売業・小売業の売掛代金は2年で時効になりますが、この債権が時効によって消滅したことを理由に、手形の支払い義務も消滅します。
時効期間が過ぎても自発的に支払ってもらえればよいのですが、法律的な義務はなくなるので支払いを拒否される可能性が出てきます。
この支払拒否の理由を人的抗弁と言います。これは、手形が譲渡されたものではなく、振出人と手形所持人(請求する人)が直接仕入れなどの取引を行った当事者である場合に発生します。
このように手形の時効のほか、取引に関する時効にも注意しなければなりません。なお、手形が当事者の手を離れ、譲渡されて第三者にわたったものである時には、この人的抗弁は主張できません。元の取引の債権が時効期間を過ぎていても、手形の時効が成立していなければ、第三者は振出人に手形金を請求して支払ってもらうことができます。
時効の進行を止めるには
時効期間の進行を止めることを「時効の中断」といいます。時効が中断されると、その後からまた新たに時効期間のカウントが始まります。
通常の債権(取引)について消滅時効を中断させるためにはいくつかの方法がありますが、代表的なものは「債務者による債務の承認」と「催告」になります。
前者は、債務者からの債務が存在することを承認する文書や支払い猶予を求める依頼書などがあれば承認したことになります。
後者は、まず債務者に支払いを請求し、その請求から6ヵ月以内に裁判所に訴訟や支払い督促の申立などをすることで、時効は中断します。手形の消滅時効も同じように、振出人の債務の承認や催告~裁判上の請求で中断します。
その他、差押え、仮差押え、仮処分などの方法でも時効を中断させることができます。